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デジタル庁 テキスト生成AI対策α版公開

公開の趣旨

デジタル庁は 2025年6月6日、「テキスト生成AI利活用におけるリスクへの対策ガイドブック(α版)」を公開した。本書は、行政機関がテキスト生成AIを導入する際に直面する固有リスクを体系化し、段階別の軽減策を示した技術レポートである。同庁は将来、本書を「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン」に統合し、アップデートを継続する計画である。

発表までの経緯

政府は令和4年6月7日閣議決定の「デジタル社会の実現に向けた重点計画」を踏まえ、2023年12月から行政現場で生成AIの技術検証を実施してきた。その知見を反映した成果物が本ガイドブックであり、2024年5月29日の初版公開以降、軽微修正を経て今回のα版に至る。

各章の要旨

本書は本文6章および付録で構成され、行政システム導入プロセスに沿ってリスクを整理する。章ごとの主な論点は次のとおりである。

概要
第1章
はじめに
目的・スコープ、用語定義、想定ユースケースを明示し、既存ガイドライン(AI事業者ガイドライン、実践ガイドブック等)との関係を示す。テキスト生成AI固有リスクを特定し、その一般的軽減策を提示する。
第2章
新サービス企画時の留意点
不適切利用リスク(期待品質過大・人手必須業務・資格制限等)と、効果的利用機会の見落としリスクを列挙。情報検索・パブリックコメント回答など4ユースケースを例示し、技術的実現可能性や民間サービス活用でリスクを軽減する手順を示す。
第3章
予算要求前時の留意点
提供形態別コスト構造を比較し、ハード/ソフト・アプリ・運用の三層でコスト削減観点を整理。Web API型やモデル直接提供型を選択する際の財務リスクと対策を提示する。
第4章
調達実施前時の留意点
チャット・バッチ処理・情報検索・自然言語プログラム生成の4類型について期待品質を定義し、非機能要件を明確化することの重要性を強調。品質目標設定と受入基準策定がプロジェクト成功を左右すると指摘する。
第5章
設計・開発時の留意点
生成物品質のばらつき、評価指標策定の難しさ、テストケース網羅率不足などに起因するリスクを整理。パラメータ調整や出力形式指定、再現性確保など具体的な品質保証策を提示する。
第6章
サービス実施時の留意点
実績データ分析、利用者要望把握、非機能要件監視、データライフサイクル管理を通じた運用フェーズのリスク低減を解説。ユースケース別にログ分析やSLA監視観点を示し、運用改善を継続的に行う仕組みを求める。

付録7 提供形態ごとの想定リスク

付録7はテキスト生成AIの提供形態を三つに分類し、ライセンス・調達容易性・機密性・アップデート対応・ベンダーロックイン・コストマネジメントの六観点でリスクを整理する。

  • 7.1 SaaS/広告課金型(例:ChatGPT、Bing Chat):生成物学習利用の禁止条項やクラウド選定要件が課題。
  • 7.2 Web API型クラウドサービス:従量課金による費用変動、モデル更新頻度の監視が必須。
  • 7.3 モデル直接提供型:高価で運用コストが読みにくい一方、カスタマイズ自由度が高い。小型化研究の進展により将来コスト低減の可能性あり。

付録8 情報検索サービス改善手法

付録8は既存データベースや全文検索エンジンを生成AIで高度化するフレームワークを提示する。

  1. 回答候補の大量QA生成―対象文書から事前に質問文と回答候補を生成し検索ヒット率を向上。
  2. ラベリングとカテゴリ推定―絞り込み検索の精度を高める。
  3. ベクトル類似検索―embeddingにより意味検索を実現。
  4. ハイブリッド構成―バッチ生成物の活用や従来NLP手法との組合せでコストを抑制。

付録9 文章類似性の機械的評価方法

付録9は文章間の類似度を定量評価する代表的手法を概説する。

  • ベクトル表現(embedding)とコサイン類似度による距離計算が中心で、サービス実施時には評価指標として再現率・適合率を採用する例を挙げる。
  • 評価モデルは基盤モデルのそのまま利用だけでなくファインチューニングも選択肢とし、ダッシュボード等の自然言語クエリ評価に応用できる旨を示す。

α版の限界と展望

ガイドブックは依然チェックリストやコスト試算ツールが限定的であり、留意点の列挙にとどまると明記する。今後は提供形態選定フレームワーク、コスト削減戦略、リスク管理計画など実践的ツールの整備を目指す。

ダウンロード情報

最新版PDF(1,742 KB)はデジタル庁ウェブサイトで公開。改定履歴(2024年5月29日初版、同5月30日・6月10日誤記修正、2025年6月6日一部改訂)を確認のうえ参照されたい。

資料のダウンロード

テキスト生成AI利活用時のリスク軽減のための対策ガイドブック(α版)(PDF/1,742KB)

本文6章と付録3章を連結して読むことで、工程別リスクマップ+提供形態別評価+関連技術ハンドブックという三層構造が明確になる。行政職員のみならず企業担当者にとっても、自組織の導入段階・提供形態・技術選択に応じた参照ポイントが把握しやすい構成であり、正式版ではチェックリスト化の進展が期待される。

出典:デジタル庁 テキスト生成AI利活用におけるリスクへの対策ガイドブック(α版)

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