実践!ブロックチェーン いろは(第1回) Hyperledger ProjectとHyperledger Irohaとは何か?
Hyperledger Iroha、日本発のブロックチェーンフレームワーク「いろは」
「いろは」のことを聞いたことがありますでしょうか。正式には、「Hyperledger Iroha」という名称ですが、日本発のブロックチェーンのフレームワークとして開発されてオープンソースで開発が進められているものです。ここでは、以降Hyperledger Irohaのことを、「いろは」と呼んでいきます。
現在はHyperledger Project(https://www.hyperledger.org/)のブロックチェーン・フレームワークのひとつとして開発が進められていますが、最初に日本のスタートアップであるソラミツ株式会社で開発されたものがHyperledger Projectに寄贈されて、オープンソースとして世界の開発者たちにより精力的に開発が続けられています。
このHyperledger Projectは、非営利(オープンソース)でビジネスに利用できるブロックチェーン技術を推進するために、Linux Foundationを主宰としてIBM、Intel、JP Morgan、SWIFTなど世界20社が中心となって2015年12月に発起され、2016年2月9日に30社によって設立されたプロジェクトです。設立時点で、日本からは富士通、日立製作所、NTTデータ、NECが参画しています。その後多くの企業、団体が参加して現在では200を超える陣容となっています。
Hyperledger Projectで採択されたプロジェクトとしては、当初のFabric、Sawtooth、そしてIrohaの3つから始まり、現在ではブロックチェーンのフレームワークとして以下の6つが採択されています。
・Hyperledger Besu
・Hyperledger Burrow
・Hyperledger Fabric
・Hyperledger Indy
・Hyperledger Iroha
・Hyperledger Sawtooth
Hyperledger Projectの元で行われる、「新しい機能の開発」などの共同作業も「プロジェクト」と呼ばれています。そのため、Hyperledger Projectの傘下に、上記のようなプロジェクトがあるということになります。
ここでは、Hyperledger Projectにおけるブロックチェーンのフレームワークとしてご紹介していますが、他にも種々のライブラリー、ツールなどの開発が進められています。
参照: Hyperledger Project https://www.hyperledger.org/
ブロックチェーンと分散型台帳技術
Hyperledger Projectでも、実は上記のプロジェクトを「ブロックチェーン」ではなくDistributed Ledgersとして掲載されています。
このDistributed Ledgersは、一般にDLT(Distributed Ledger Technology、分散型台帳技術)と呼ばれている技術になります。このDLTは、ブロックチェーンよりも幅広い概念として、分散システム上の多数の参加者が同一の台帳を共有する方式となっています。ブロックチェーンと同様に、多くの参加者が同じ情報を共有することで改ざんなどの攻撃を防いで台帳上に書き込まれた情報の信頼性を確保しています。参加している複数のコンピュータ上に,同一の台帳が分散して保存されているのですが、書き込まれているブロックがチェーン構造でつながっているものがブロックチェーンと呼ばれています。
ブロックチェーンと情報の信頼性
ブロックチェーンでは、ネットワーク上に分散して接続されたコンピュータで同一の情報をブロックとして台帳に書き込みますが、さらにチェーン構造で連結されていることから改ざんを防ぎ信頼性を確保することのできる仕組みとなっています。
このブロックがチェーン構造で連結されている様子は、ビットコインのホワイトペーパーでは次のように説明されています。
ここでは、暗号技術として公開鍵暗号のひとつである楕円曲線暗号とハッシュを利用することで強固なセキュリティを確保していますが、これらの技術をさまざまに組み合わせることで、より強靭なセキュリティを確保できています。
ホワイトペーパーにある、上図の例ではブロックが「前のハッシュ」で連結されている様子が示されていますが、この先行ブロックを示すハッシュ値の連鎖によってブロックチェーン構造ができあがっています。
その他にも、トランザクションには送金者の秘密鍵で署名されていることから、否認を防ぐことができています。さらに、ブロックを作成する際に、ビットコインでは「PoW」(Proof of Work)として図にある「Nonce」の値を計算しているのですが、ブロックのハッシュ値を計算した結果が所定の難易度よりも小さな値となるように計算を繰り返しています。
ハッシュ値の計算ですから、膨大な計算を繰り返す必要があり、多大な計算資源と電力が消費される結果となっています。また、このような計算を繰り返してブロックを生成する作業が「マイニング」と呼ばれています。ここで、ブロックのチェーン構造を作り上げるためには、膨大な計算資源が必要になるということからもブロックチェーンで情報の改ざんを防ぐことができる仕組みとなっています。
参照:ビットコイン:P2P 電子通貨システム https://bitcoin.org/files/bitcoin-paper/bitcoin_jp.pdf
いろはの国内外事例~カンボジア国立銀行のBakongと会津大学など多数
実は、「いろは」は既に世界の色々なところで使われていて種々の実績があります。
ここでは、代表的なものを取り上げますと次の図のようなユースケースで既に国内および国外で実際に使われています。
このうち、カンボジア国立銀行のBakong(バコン)は、2017年3月から日本のソラミツ株式会社との共同開発により、世界に先駆けた中央銀行デジタル通貨(CBDC:Central Bank Degital Currency)として、2020年10月28日から18銀行が参加(24銀行が準備中)して正式に運用開始されています。
このバコンが1600万人の国民が電話番号で送金したり、QRコードでの店舗払いに利用されています。おりしも、コロナ禍による対策にも役立つものとなっていて、利用の幅が広がりつつあります。
また国内でもデジタル地域通貨としての活用が進められていて、2020年7月1日からは福島県の会津大学において学内デジタル通貨「白虎(びゃっこ)」の運用が始まっています。会津大学では、学内の食堂および売店においてモバイルで「白虎」を使うことができています。
さらに、本年2021年7月15日からは福島県の磐梯町において、「デジタルとくとく商品券」としてデジタル地域通貨が運用されています。こちらは、25%のプレミアムが付いていることもあり、販売当日の早い段階で売り切れてしまい、多くの年配の方にも購入されて利用されているものです。
このように、日本および海外で幅広いユースケースで日本発のブロックチェーンであるHyperledger Irohaが使われています。
今回は初めでもあり、ブロックチェーンの基盤であるHyperledger Irohaの概要と事例についてみてきました。
次回からは、Hyperledger Irohaの内容と使い方について具体的にみていきたいと思います。
米津 武至(Takeshi Yonezu)
ソラミツ株式会社 ブロックチェーンアーキテクト
中央大学研究開発機構 客員研究員
前職では、金融決済系としてSWIFTネット、日銀ネット、AMLなどのシステム基盤を担当。2016年より、ソラミツ株式会社のブロックチェーン・アーキテクトとして主にHyperledger Irohaの教育・研修、および技術的なコンサルタントとサポートを行なっている。
https://soramitsu.co.jp/ja
https://tkyonezu.com/
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ソラミツ代表取締役社長。東京工業大学大学院修了。1980年ソニー入社。日本での電子マネーの草分けであるEdyの立ち上げに参画。運営会社のビットワレットの常務執行役員、楽天Edy執行役員を経てソラミツ入社。東京工業大学経営システム工学講師、ISO/TC307 ブロックチェーン国際標準化日本代表委員。
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