AIで街の快適を見える化
北大発認定ベンチャーの株式会社ミルウスと横浜国立大学発ベンチャー UNTRACKED株式会社は、両社の技術を融合し、サイバー空間で個人や集団の体と心の状態を可視化する次世代仮想センサmiruWs (R) 2.0の実用化に向けて、共同開発を開始した。リストバンド等で取得した脈波/心電波形を、クラウド上のAI技術や高度な信号処理技術を用いて解析し、喜怒哀楽といった感情や高精度な血圧値等をネット上のWEB APIで提供する。秘匿性の高いパーソナルデータを扱うため、匿名利用も含め、サービス毎の都度本人同意を取得する。国際標準化が進んでいるIEC63430 IoT情報コンテナにパーソナルデータを収容し、追跡可能な安全な流通を実現。世界での活用を目指す。
[背景]
リストバンド等で得られる脈波/心電波形を高度な信号処理で解析することにより、米国のウェルネス規格に適合する高精度血圧(※1)推定技術が発表されるなど、日常生活の中で負担なく正確な健康状態を可視化する非侵襲・無意識・連続センシング技術が急速に進化している。
この進化は、体だけにとどまらず、喜怒哀楽といった心の状態(感情)まで可視化できるようになりつつあり(※2)医療・健康だけでなく、スーパーシティ、働き方改革、マーケティング等、幅広い分野への応用が期待される。
一方、非侵襲・無意識・連続センシング技術の進化に伴い、一旦それらが個人情報と紐づけられると、深刻なプライバシー侵害を引き起こす恐れがある。
例えば、個人の感情を長時間計測することにより、性格を、正確な血圧を長時間測定することにより疾病リスクを本人の知らないうちに把握できるようになり、就職や融資などで不当な差別を引き起こす恐れがある。
さらに、集中型のクラウド上に集まった大量の個人データが流出すると大規模で深刻なプライハジー侵害を引き起こす恐れもある。
[仮想センサ miruWs(R) 2.0の概要]
北海道大学発認定ベンチャーの(株)ミルウス(※3)は、同大学で研究を行った、物理空間のリストバント、センシング・アンダーウェア等の多様な日用品センサを用いた非侵襲・無意識・連続センシング・システムをサイバー空間で定義する「仮想センサ」(※4)の実用化を推進するとともに、非侵襲・無意識・連続センシングにおいて不可欠なプライバシー保護を実現する分散型パーソナルデータ収集・保管・活用システム「miParu(R)パーソナルデータストア(PDS)」システム(※5)の開発・実用化を推進してきた。
横浜国立大学発ベンチャーのUNTRACKED(株)(※6)は、高齢者の転倒リスクを可視化する立位年齢測定装置「StA2BLE」(※7)の開発・商品化や横浜国立大学島研究室が開発した多様なAI解析技術の実用化を推進してきた。今回、共同開発に合意した「仮想センサ miruWs(R) 2.0(以降 仮想センサ2.0)」は、従来の「仮想センサ」を「miParu(R)パーソナルデータストア(PDS)」システム上で実現する。
図1に示すように、「miParu(R)クラウド」内に、両社が共同開発した多様な解析処理・AI処理、さらにはWEB-API等で得られるパートナー各社の解析結果を組み込むことにより、WEB-APIと「miParu(R)コンテナ」を用いて、サイバー空間の多様な応用に対して高レベルのセンシング結果を提供する。個人だけでなく集団の非侵襲・無意識・連続センシングデータを提供者のプライバシーを保護して提供する、世界的にも類を見ないプライバシー保護機能を有したサイバー空間上のセンサである。
[仮想センサ2.0の機能例]
本仮想センサが提供する機能を感情可視化およびフレイルの評価を例に説明する。
(1) 感情可視化: 人の感情を可視化する手段としてラッセルの感情円環モデル(図2)が良く知られている。本仮想センサは、心電や脈波といった生体信号を利用シーンに応じた最適な非侵襲無意識連続計測センサで取得して感情推定を行なう。
例えば過酷な使用環境では振動に強いセンシング・アンダーウェアを用い、通常環境ではリストバンドを用いるといった具合。このような物理センサの多様性に対応するために本仮想センサのAIは、良く知られた知識の蒸留による機械学習を用い、取得した脳波、脈波、心電、発汗などの多様な生体信号でAI学習を行い、その学習結果をリストバンド等の利用シーンに最適な物理センサを入力とするシンプルなAIに入力して感情を推定する(※2)。
本仮想センサの出力は図2に示すようにラッセルの感情円環図上にプロットすることにより得ることができる。
また、各範囲に色を割り当てる事により、図3(a)のような地図上の表示や、同図(b)のような時系列表示をWEB-APIで閲覧可能となる。また、匿名化して得られたデータを集団の感情データとして統計処理することにより、図3(a)のビックデータ化では、観光客が快適と感じる地域・施設を可視化し、図3(b)では、手術中に医師が不安を感じる施術を洗い出す事が可能となる。
(2)フレイル可視化:
フレイルになると、歩行速度が下がり、転倒リスクが増え、睡眠の質も下がると言われている。
仮想センサで、これらを可視化することにより、より正確にフレイルを評価し、対策の作成に参考情報として使用できる。UNTRACKED(株)のStA2BLEを仮想センサの入力とすることにより、筋骨格系の立位機能と感覚系の立位機能を測定し可視化することができ、また、リストバンドを用いることにより、日々の睡眠、歩行速度、心拍等を測定・可視化できる。
これらを総合的に判断することにより、より正確にフレイルリスクの評価が可能となる。
[事業化に向けたロードマップおよび将来展望]
仮想センサ2.0および3.0の開発・事業化計画を図5に示す。本年度下期は、心電波形を用いた感情推定、WITH-BANDを用いたライフパタン表示、立位年齢測定のStA2BLEの仮想センサ対応開発に注力する。この仮想センサをWEB-API等を通して、パーソナルデータを活用する各分野の企業・研究機関等に提供して応用分野開拓や各分野に適したAIモデルの開発などを推進する。
また、仮想センサの感情推定や高精度バイタルサイン推定に必要な要求仕様に基づく脈波センサ(リストバンド)のプロトタイプ開発を推進し、完成後の2023年度は設計情報・仕様を量産パートナーに提供し、製品開発を支援する。
併せて、本年7月にセキュアIoTプラットフォーム協議会内に設立されたPDS部会((※9))に於いて、参画各社と連携して国際標準化が進んでいるIoT情報コンテナ(※10)等のパーソナルデータのセキュアな流通の仕組み策定や国際標準化を推進するとともに、標準化の成果を、仮想センサ2.0のコンテナ構造に迅速に反映する。これにより発展途上国の人々のパーソナルデータを用いて国内から健康支援や遠隔医療を行うなどのヘルスケア国際連携の実現に一歩近づく。
ネットの世界では集中型のWEB2.0に加え、個人を起点としたWEB3.0に向けた新たな潮流も見えてきており、貯健箱(R)アプリを用いてPDSに署名付きで貯蓄されたパーソナルデータのブロックチェーンを用いた資産化や仮想空間メタバース内のアバターと物理空間の個人を結びつけるなど、WEB3.0時代の仮想センサ3.0の企画を推進する。
[参考リンク]
※1 電気学会論文誌E (センサ・マイクロマシ部門) 6月号
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ieejsmas/141/6/141_186/_article/-char/ja/
※2 日本機械学会主催のロボティクス・メカトロニクス講演会ROBOMECH2021)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsmermd/2021/0/2021_2P3-J17/_article/-char/ja/
※3 株式会社ミルウスホームページ
https://www.miruws.com/
※4 仮想センサに関する論文
https://researchmap.jp/SigeMINAMI/published_papers/25648868
※5 ミパルPDSのブレスリリース
https://www.nikkan.co.jp/releases/view/133518
※6 UNTRACKED株式会社のホームページ
https://www.untracked.co.jp/company/
※7 StA2BLEのホームページ
https://sta2ble.untracked.co.jp/
※8 WITH-BAND提供予定のHTL株式会社のホームページ
https://www.htl-jp.com/
※9 セキュアIoTプラットフォーム協議会 PDS部会プレスリリース
https://www.secureiotplatform.org/release/2022-08-08
※10 IoT情報コンテナ国際標準関連プレスリリース
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000035997.html