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開戦1年を経たロシア・ウクライナ戦争に関連するサイバー攻撃の統計結果を発表、「史上初の大規模なハイブリッド戦争」と指摘

2022年9月を境にウクライナに対する1組織当たりのサイバー攻撃数の週平均は44%減少した半面、特定のNATO諸国に対するサイバー攻撃数の週平均は増加

包括的なサイバーセキュリティソリューションプロバイダーであるチェック・ポイント・ソフトウェア・テクノロジーズ(Check Point Software Technologies Ltd.、以下チェック・ポイント)の脅威インテリジェンス部門であるチェック・ポイント・リサーチ(Check Point Research、以下CPR)は、開戦から1年を経たロシア・ウクライナ戦争に関連するサイバー攻撃に関する統計結果を発表した。

ハイライト
ロシアによるウクライナ侵攻から1年、CPRは2022年の9月を紛争に関連したサイバー攻撃のターニングポイントとした。

2022年3月~9月と2022年10月~2023年2月を比較では、以下のような結果になった。

・ウクライナに対する1組織当たりのサイバー攻撃数の週平均は1,555回から877回へと推移し、44%減少
・ロシア連邦に対する1組織当たりのサイバー攻撃数の週平均は1,505回から1,635回へと推移し、9%増加
・特定のNATO諸国に対するサイバー攻撃数の週平均は、以下のように増加

 ・イギリスとアメリカに対するサイバー攻撃はそれぞれ11%増と6%増で、両国ともにわずかに増加
 ・エストニア、ポーランド、デンマークに対するサイバー攻撃は、それぞれ57%増、31%増、31%増と
いずれも急激な伸び

CPRはこれらの統計結果から、2022年10月以降、戦争にまつわるサイバー攻撃の情勢に変化が見られることを示し、対ウクライナよりも対NATO諸国でサイバー領域でのより多くの働きかけの展開を明らかにしている。

史上初の大規模なハイブリッド戦争

2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻は過去1年間で最も影響力の大きな地政学的事件であった。この紛争は、過去数十年間の欧州における最も悲惨な軍事衝突となり、ロシアの軍事力や指導的国家としての地位、ロシアと欧米諸国の力の均衡、欧州諸国の外部エネルギー依存、燃料価格や経済への世界的影響など、諸問題に新たな光を当てている。

サイバーセキュリティ分野でも影響が確認されている。今回の紛争はサイバー領域をも戦線に含む、史上初の大規模なハイブリッド戦争であるためである。私たちはサイバー空間における戦争の二次的損害について多くの教訓を得ている。例えば、破壊的マルウェアの有効性や戦時下のサイバー活動の帰属、攻撃活動が国家主導のサイバー攻撃・ハクティビズム・サイバー犯罪 < https://home.treasury.gov/news/press-releases/jy1256 > のいずれに該当するか、サイバー上の敵対行為と防衛協定への影響、サイバー作戦の戦術的戦争への寄与能力と必要な準備などである。いくつかの分野ではすでにグローバルな影響が表れている。

ワイパー型マルウェアの台頭

標的システムの運用を妨害するワイパー型マルウェアへの認識も、戦争によって大きく変化した。ワイパー型マルウェアは、この1年間、紛争激化に伴い東欧に限らずあらゆる地域でより頻繁に使用されている。

ロシアのウクライナ侵攻初期には、ロシアと提携する脅威アクターによるウクライナへの破壊的なサイバー攻撃が大幅に増加した。2月の地上侵攻前夜、3つのワイパー型マルウェア が展開された。4月には2016年の攻撃で使用されたマルウェア「Industroyer」の新バージョンが、ウクライナの電力網への攻撃に使用された。ウクライナではこの1年足らずの間に少なくとも9種類のワイパー型マルウェアが展開された。その多くはロシアの様々な情報機関によって個別に開発 され、異なるデータ破壊や回避メカニズムを採用している。

ロシア系ハクティビスト集団「From Russia With Love(FRwL)」は、ウクライナに対しランサムウェア「Somnia」 を展開した。またマルウェア「CryWiper」はロシアの自治体や裁判所に対し展開された。ワイパー型マルウェアは他地域にも広がり、イラン帰属のグループはアルバニアを攻撃し、謎のワイパー型マルウェア「Azov 」が世界中に拡散した。

サイバー分野での多角的な取り組み

ウクライナへの攻撃を振り返ると、攻撃的なサイバー活動には社会全体に損害を与えるものと、より精密で実際の戦闘と連携した攻撃がある。ウクライナへの地上侵攻直前のViasat社に対する攻撃は、ウクライナ軍などにサービスを提供する通信衛星妨害を狙ったもの。攻撃にはワイパー型マルウェア「AcidRain」が使用され、数万台のシステムのインターネット接続を遮断するよう設定されていた。キーウのテレビ塔にロシアのミサイルが命中した際にも、その影響強化のためサイバー攻撃が行われた。

高精度な戦術的サイバー攻撃には綿密な準備と計画が必要。ロシア軍が長期的な作戦を準備しなかったことは証拠が示唆している。ロシアのサイバー作戦は、Viasat への攻撃のように、初期には明確な戦術的目標を持つ緻密な攻撃であったが、4月以降は変化している。初期の特徴だった複数の新ツールやワイパー型マルウェアは、その後既存の攻撃ツールや戦術に代わり、攻撃目的は検知した機会の素早い悪用となった。

CPRのデータでは、冒頭ハイライトに示したように、9月以降のウクライナ国内のサイバー攻撃回数は大きく減少し、NATO加盟国に対するサイバー攻撃は大幅に増加した。これはロシアや提携するグループの手口と優先順位の変化を示し、彼らの関心がウクライナから、同国を支援するNATO諸国へと移ったためである。

図1 – 各国における1組織当たりのサイバー攻撃数の週平均

ハクティビズムの出現

サイバー上の敵対行為に対する昨年のウクライナの対応は改善を見せ、イギリスの情報・サイバーセキュリティ機関のトップは「歴史上最も効果的な防衛的サイバー活動」と評した。理由の1つは、ウクライナが2014年以降受けてきた度重なるサイバー攻撃にある。例えば、2022年3月の「Industroyer2」による攻撃の影響は、2016年と比べ限定的であった。ウクライナは外国政府や民間企業から多額の支援を受け、ITインフラの多くを迅速にクラウドに移行、データセンターを戦闘地域から物理的に遠ざけ、サービスプロバイダーによる追加の保護レイヤーを得ている。

ボランティアのITスペシャリストによる部隊「ウクライナIT軍」を設立・運営も、ハクティビズムの様相を一変させた。以前のハクティビズムの特徴は個人間の緩やかな協力とアドホックな連携であったが、新しいハクティビスト集団は組織と統制のレベルを緊密化し軍隊のような作戦を実行している。反ロシアのハクティビストはこの一年を通じ、インフラや金融機関および政府機関に活発に影響を与えてきた。

CPRのデータでは、2022年9月以降、ロシア国内の組織、特に政府機関や軍事部門への攻撃は大幅な増加が見られる。

図2 – ロシアとウクライナの政府・軍事部門における1組織当たりのサイバー攻撃数の週平均

新手のハクティビスト集団の多くは、いずれかの政府のシナリオと連携した明確で一貫性ある政治イデオロギーを持つ。親ロシア派ハクティビストは、ウクライナを主な標的とした活動から、近隣NATO加盟国やその他西側同盟国へと焦点を変えている。ハッカー集団「キルネット」は、アメリカ国内の医療機関や病院、空港など重要インフラを標的に標的型DDoS攻撃を行った。ロシア系ハクティビスト集団「NoName057(16)」は、チェコの大統領選挙を標的にしました。一部のサイバー犯罪組織は、国家的活動への参加と、犯罪行為の縮小を余儀なくされた。ロシア企業への攻撃が増加し、ロシアは政府活動や政治的ハクティビズム、犯罪行為などによる未曽有のハッキングの波を受けて苦境に立たされている。国民国家による活動、ハクティビズム、サイバー犯罪はより区別が難しくなっている。

様々な国民国家のアクターも、利益のため戦争を利用しました。CPRの報告では、異なるAPTグループが紛争の初期段階から複数のキャンペーンを実施し、進行中のロシアとウクライナの紛争を利用している。他の国々はロシアの国有防衛機関を標的とし、ロシアでのスパイ活動を強化した。サイバー犯罪組織「Cloud Atlas」はロシアとベラルーシの事業体を継続的に狙っている。

今後の展望

既に私たちは、ロシアとウクライナの紛争が複数の分野でサイバー戦術に影響を与えたことを確認している。戦争が続く限り、その動向が他の地域や領域にも影響を与え続けることは疑いない。

本プレスリリースは、米国時間2023年2月21日に発表されたブログ(英語)をもとに作成している。

出典:チェック・ポイント・リサーチ、開戦1年を経たロシア・ウクライナ戦争に関連するサイバー攻撃の統計結果を発表、「史上初の大規模なハイブリッド戦争」と指摘

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