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【SIOTP協議会】IoTセキュリティ観点におけるChatGPTに対する考察を発表

2022年11月にリリースされ、世界的に多くのユーザーを集めている人工知能チャットボットの「ChatGPT」。
登場以降、大きな反響を呼び、業務の効率化、生産性の向上などを目的に多くの企業や団体で導入が検討されています。しかし、AIを悪用することにより、マルウェアなど悪意を持ったプログラムを容易に生成される恐れがある、さらにそれがIoTシステムに組み込まれることにより、大きなセキュリティ事故に繋がることも懸念もされています。

今や、ソフトウェアのサプライチェーン管理が重要となってきており、生成されたプログラムに対するコード署名やSBOM(ソフトウェア部品表)の活用が求められています。オープンソースを狙われるケースが多発していることからLinux Foundation/OpenSSFなどのコミュニティの活動との連携がますます重要になっています。

そこで、セキュアIoTプラットフォーム協議会は、「IoTセキュリティ観点におけるChatGPTに対する考察」を発表しました。

以下に全文を掲載しますので、ご一読ください。


「IoTセキュリティ観点における ChatGPTに対する考察」

一般社団法人セキュアIoTプラットフォーム協議会
理事長 辻井 重男
2023年5月

はじめに

昨今、OpenAI社のAIチャットボットChatGPTを中心にAIの活用について、その効用と課題が広く議論されているのは周知のことである。例えばChatGPTにより、幅広い領域での業務の効率化が期待される一方で、その生成される結果の正確性・信頼性の保証や生産物の著作権の所在、機密情報の漏洩などの脅威も想定され、その使い方について議論が進められている。また知識や経験に乏しくとも、ChatGPTを活用することにより、エキスパートと同等の結果を導く可能性さえ出てきており、その悪用も懸念されるところである。

サイバーセキュリティ上の脅威

サイバーセキュリティの観点で考えると、いままで専門知識をもつ人間や組織しか開発できなかったマルウェアなどの悪意を持ったプログラムの生成に活用される可能性を含んでいることを憂慮する。その結果、今まで以上にマルウェアが広く生成、流布され、犯罪に悪用される脅威があることは無視できない。ChatGPTにはそのような悪用を防ぐために、不適切な問いには回答を拒否するセキュリティフィルタなどの安全上の制限がかけられているが、残念ながらそれをかいくぐるような手段も研究をされ、対策に限界もあるのが現状である。

つまりIoTシステムにおいても、悪意を持ったコードが生成され、それが気づかれないうちに機器に混入・実装される可能性があるということである。そのようなIoT機器が産業用途で活用され、M2Mで何らかのインタラクションが発生した場合に、予期せぬ結果がもたらされたり、機密情報や知財の漏洩に繋がることが懸念される。またコンシューマ用途で利用される機器に混入した場合もプライバシー侵害や情報漏洩に繋がることは否定できないのである。

ソフトウェアサプライチェーンの安全性強化

このような環境変化を前提に、悪意を持ったプログラムの混入を防ぐためには、ソフトウェアサプライチェーンの安全性を強化することが喫緊の課題であると考える。

具体的な対策としては、生成されたプログラムをコード署名により安全性を担保することやソフトウェアの部品表ともいえるSBOM(Software Bill of Material)による管理が必要であると考える。

これはセキュアIoTプラットフォーム協議会(以下:当協議会)が会員企業と共に、2022年の夏より進めてきたLinux Foundation/OpenSSF(Open Source Security Foundation)との連携によるソフトウェアセキュリティに対する取組みともつながるものである。いまや重要インフラも含む多くの IoTシステムで利用されるオープンソースについて、 Log4j問題に代表される重大かつ広範囲なインシデントに対応する為、米国政府と連携し、活動するLinux Foundation/OpenSSF の動きに注目すべきということは以前にリリースしたドキュメントでも述べたとおりである。その活動の中でもSigstoreによる電子署名サービスやSBOMを活用したソフトウェアサプライチェーン管理が重要な施策として取り上げられている。

※参考資料:

「経済安全保障への対応~オープンソースセキュリティの動向~」(2022/8/25)
https://www.secureiotplatform.org/wp-content/uploads/report_20220825.pdf

「経済安全保障への対応~国際連携におけるサイバーセキュリティ対策の推進~」(2023/1/12)
https://www.secureiotplatform.org/wp-content/uploads/report_20230112.pdf

まとめ

ChatGPTの出現により、当協議会が会員企業と連携し進めてきたソフトウェアサプライチェーン管理の重要性がさらに拡大し、IoTシステムの安全性確立に向けての動きをさらに加速する必要が高まってきたと考える。

日本政府としても2023年5月9日に、岸田文雄首相より「AI戦略会議」を立ち上げ、ChatGPTも含めてAIに関わる課題について、政府関係者と有識者で議論を開始する旨が発表された。この中でも当協議会でも取り組むSBOMの導入も含めたソフトウェア安全基準を整備することも含まれると想定される。

以前よりセキュアIoTプラットフォーム協議会では、国際安全基準に基づくものづくりにおいて、IoT機器の真正性担保、製造から破棄に至るライフサイクルマネジメント、およびIoT機器に組み込まれるソフトウェアのサプライチェーン管理により、IoTシステム全体の安全性担保に対して研究を行ってきた。

当協議会では、引き続き会員の皆様の力を結集し、安心安全なIoT社会の構築に向けて、取り巻く環境変化をいち早く捉え、国際安全基準や日本政府の施策を基に、セキュリティ対策の推進に取り組んでいく所存である。特に多くのIoTシステムにおいてオープンソースが活用されていることを考慮すると、産業界のみならずコミュニティと連携したセキュリティ対策支援に力を入れていくことが重要であると考える。

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