デジタル庁 データ戦略の推進―DX with Cybersecurity へ
デジタル庁は 、「データ戦略の推進」に関する最新情報とともに、政府横断施策をまとめた「デジタル社会の実現に向けた重点計画」(2023 年 6 月 9 日閣議決定)本文を公開した。本稿では同計画と過去の「包括的データ戦略」だけに基づき、データ利活用とサイバーセキュリティを両⽴させる政策群をサイバーセキュリティ中心に再整理する。
1.戦略の全体像―DX with Cybersecurity
計画は「AI活用」「ベース・レジストリ整備」「国際連携(DFFT)」の三本柱を掲げる一方、サイバーセキュリティは全施策を貫く共通基盤と位置付ける。政府は2021年策定のサイバーセキュリティ戦略で、“DX with Cybersecurity”、すなわちデジタル化と同時並行でセキュリティを実装する方針を明示している。
2.政府情報システム―ゼロトラストと常時診断
計画はまず「政府統一基準」を2023年度に改定し、
- クラウド・バイ・デフォルトの徹底
- 常時診断・対応型セキュリティアーキテクチャ
- ゼロトラストとDevSecOpsの本格導入
を明確化した。デジタル庁とNISCは、リアルタイム監査が可能な新システムを開発し、府省庁へ展開する構想である。クラウド利用についてはISMAP登録サービスの活用を前提に安全性を担保する。
3.産業分野―CPSFとSBOMでサプライチェーン防御
Society 5.0 ではサイバーとフィジカルの融合が進む。計画は
- CPSF(Cyber-Physical Security Framework)に基づく業界ガイドライン
- SBOMとソフトウェアライフサイクル管理ガイドライン
- IoT機器セキュリティ適合性評価制度
を産業横断で整備し、欧米規格と調和させる方針を示した。特にSBOMは生成AIや自動車ソフト更新時代に不可欠な“部品表”として普及が期待される。
4.中小企業支援―お助け隊と相談窓口
被害が深刻化するSMB向けには、
- 「サイバーセキュリティお助け隊サービス」(監視・対応・保険をパッケージ)
- IPA相談体制と情報共有プラットフォームの強化
を掲げ、安価で実効的な対策を普及させる。
5.国際連携―DFFTとグローバルCBPR
国際データ流通の信頼担保には、
- DFFT(Data Free Flow with Trust)/IAP(Institutional Arrangement for Partnership:IAP)を通じた越境データガバナンス
- グローバルCBPR(Cross-Border Privacy Rules)フォーラムによるプライバシー相互運用性
を推進する。いずれもサイバー空間のルール形成と密接に結び付いており、能動的サイバー防御を含む安全保障政策とも連動する。
6.量子時代の暗号と脅威分析基盤
量子計算機に備えた耐量子暗号や量子暗号通信の研究開発に加え、
- 国産セキュリティソフトによる政府端末ログ分析
- NICT/GSOC(Government Security Operation Coordination team)連携での脅威インテリジェンス強化
が盛り込まれた。海外依存を減らし「我が国独自の脅威情勢分析能力」を高める狙いである。
7.ベース・レジストリと信頼性確保
法人・土地など一次データベースの整備では改ざん耐性・真正性が最優先課題となる。政府は
- アクセス制御と変更履歴の完全追跡
- 暗号署名付きAPI
- 24/365監視
を前提実装とし、レジストリ自体を「最重要情報基盤」と定義した。これによりデータ連携のエンドポイントが標的化されても迅速に検知・遮断できるとしている。
8.マイナンバー事案から学ぶ“オペレーションの信頼”
2023年に顕在化したマイナカード関連トラブルを踏まえ、計画は
- 総点検と誤登録防止策
- 人為的ミスを減らす自動化
- 国民への迅速な情報発信
を徹底するガバナンスモデルを提示した。DX推進と同時に「失敗情報の透明化」が国民の信頼醸成に不可欠である。
9.ロードマップと今後の論点
年度 | サイバーセキュリティ関連マイルストーン |
---|---|
2024 | 政府統一基準改定・常時診断システム試行、医療DX標準電子カルテ着手 |
2025 | ISMAP拡充、SBOMガイドライン制定、診療報酬共通算定モジュール本格提供 |
2026 | DFFT/IAPによる越境データ連携実証、量子暗号通信の社会実装パイロット |
論点:
- 能動的サイバー防御の導入法制
- 地方自治体クラウド移行とセキュリティ人材不足
- AI生成コンテンツへの耐性(フェイク対策)
政府は“データ×セキュリティ”を両輪にした基盤整備を進めるが、実装フェーズでの運用監査と地方・民間への波及が成功の鍵を握る。
10.おわりに
重点計画は「データ戦略はサイバーセキュリティ抜きに成立しない」ことを再確認した文書である。ゼロトラスト設計、CPSF、SBOM、量子耐性暗号、能動的防御――これら多層施策を統合し、“DX with Cybersecurity”を如何に運用し切るか。今後3年間の実装結果が、日本のデータ主権と国際競争力を左右する。
関連資料
- (参考)包括的データ戦略(PDF/1,704KB)
- デジタル社会の実現に向けた重点計画(本文)(PDF/1,189KB)
- 政府相互運用性フレームワーク(GIF)
- プラットフォームにおけるデータ取扱いルールの実装ガイダンスver1.0(PDF/3,194KB)
- 独立行政法人情報処理推進機構第五期中期目標(PDF/1,100KB)
参考:デジタル庁 データ戦略の推進