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AI決済とステーブルコインの未来

ビザ・ワールドワイドは、「AIショッピングからステーブルコインの進展まで:2026年を変革する決済に関する主な予測」を公表した。米国で発表された、Visaグループプレジデントのオリバー・ジェンキン氏による2026年の決済予測の抄訳であり、エージェンティックコマース、AIによるアイデンティティ攻撃、ステーブルコインの拡大、オンライン決済体験の変化、現金利用、各国市場の類型という観点から、決済の近未来像を示している。

エージェンティックコマースが現実に近づく

ジェンキン氏は、驚異的なソフトウェア、モバイル端末、生成AI、ブロックチェーンなどが「お金との関わり方」を大きく変えており、決済サービス業界は他業界以上に新技術を積極的に取り入れてきたと位置づける。そのうえで、対面式コマースからeコマース、モバイルコマースへと進化してきた流れが、「消費者や企業の代わりにエージェントが取引を行うエージェンティックコマース」に向かいつつあると述べている。

2026年には、AIのサポートによるショッピングが一層現実味を帯びるとし、「ChatGPTアプリを開くと、新たに『購入を代行』というボタンが表示されることを想像してください」と具体的なイメージを示す。決済の有効化(カードの読み込みとトークン化)、嗜好に応じたカスタマイズ(安全なデータトークンを通じた履歴共有)、支出の管理(用途や金額条件の設定)という3つの処理を通じて、エージェントが専属のパーソナルショッパーのように機能する世界観を描いている。

AI時代のアイデンティティ攻防

一方で、「アイデンティティをめぐる戦いはAI時代に突入している」と警鐘を鳴らす。犯罪者もAIを活用し、ディープフェイクやエージェント詐欺、合成IDなどで「アイデンティティ」を狙うようになっているとする。

従来の詐欺はトランザクション単位で発生し、「一度に盗めるのは1件の取引」に限られていたが、AI技術の進歩により「消費者のアイデンティティ全体を盗む」段階に進み、「一度アイデンティティが盗まれると、その情報によるすべてのトランザクションは攻撃者のものとなります」と説明している。2026年には、このようなAIを利用したアイデンティティ攻撃がさらに高度化し、件数も大幅に増加すると予測する。

AIショッピングからステーブルコインの進展まで

こうした状況に対抗するには、銀行や加盟店、フィンテック企業、政府が個別に取り組むのではなく、決済サービス業界が協力してアイデンティティ詐欺と戦い、共通の機能や技術を開発してリスクを管理する必要があるとし、Visaはこの分野で中心的役割を担うと述べている。

ステーブルコインが決済インフラへ

ステーブルコインについては、「法定通貨によって担保された暗号通貨であるステーブルコインは、これまで投機的な資産と見なされていたものを、信頼できるグローバル決済インフラへと変革しています」と評価する。

新興市場では、現地通貨が不安定で安定した米ドルの利用が限られている状況において価値保存手段として機能し、クロスボーダーのB2B / B2C決済やP2P送金では、既存ソリューションの効率化に寄与するとする。Visaカードと連携した暗号資産ウォレットには無制限の決済範囲が与えられており、40か国以上で130を超えるステーブルコイン連携カードプログラムを提供していること、米ドルやユーロ建てのステーブルコインでVisaネットワーク上の決済が可能であることなどを紹介している。

市場規模については、「ステーブルコイン市場は、2030年までに最大4兆ドルに達する可能性がある」との見方を紹介しつつ、「やや強気すぎるように感じますが、2026年が本格的な飛躍の年になるというのは間違いないでしょう」との見解を示している。

消えていく手動入力とカード決済の拡大

オンラインでのカード情報入力について、ジェンキン氏は「そんな時代は、いよいよ過去の遺物になろうとしています」と述べる。Apple Payのようなデジタルウォレットや、eコマースプラットフォームに組み込まれた購入ボタンの普及により、「決済が速くなり、カゴ落ち率が低下し、不正利用も減少します」としている。

手動入力によるゲストチェックアウトを利用したVisaのeコマース取引件数は、2019年には約半数だったものが、2025年には16%にまで減少し、上位25社ではすでに1桁台前半になっていると説明する。その背景として、「160億ものVisaトークン」が発行されていることを挙げ、トークン化が安全でシームレスな決済体験を支えていると述べている。

現金については、「2026年でも、近い将来でも、現金の時代が終わることはない」としつつ、世界には約11兆米ドルの紙幣が流通している一方で、「2026年は、世界の消費者決済の半分がカード情報を使って行われる、史上初の年となるでしょう」と予測する。少額決済までタッチ決済が広がり、「『現金は王様だ』という声もありますが、その玉座は奪われつつあります」と表現している。

「市場のアーキタイプ」で見る決済の未来

Visaは200以上の市場で得られた知見をもとに、「市場のアーキタイプ」という視点で決済市場を分類している。これは、発展段階やインフラ、消費者行動、イノベーション、規制に基づき、成長モデルが類似した市場をグループ化する考え方である。

たとえば、オーストラリアはデジタル化が進み現金利用が少ない点で北欧や英国、カナダと似ていること、インドはブラジルやナイジェリアと同様に国家レベルのリアルタイム決済ネットワークに大きく依存していること、日本・ドイツ・サウジアラビア・メキシコは「デジタル決済が成長する可能性が高い、成熟した大国」として共通点を持つことなどが挙げられている。

ジェンキン氏は、このレンズを通じて「トレンドが明確になり、より正確な予測を立てることができます」としたうえで、B2B資金移動のデジタル化、デジタルウォレットの進化、モバイル端末によるマイクロマーチャントの台頭、新たなデジタル決済手段の拡大といった動きに触れ、「2026年も、非常にダイナミックで重要な一年になる」と結んでいる。

出典:PRTimes AIショッピングからステーブルコインの進展まで:2026年を変革する決済に関する主な予測

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