1. HOME
  2. ブログ
  3. 組込みAIの基礎知識と、現状の課題を解決する最新ソリューションとは?

組込みAIの基礎知識と、現状の課題を解決する最新ソリューションとは?

組込み機器開発において、エッジ側のAIでデータを処理する動きが加速している。IoTの進化とクラウドサービスに限界が来ているからだ。高度化されたセンサーのデータ量は、2018年から2025年までに79兆4億GBと5.8倍まで増大するという。そうなると、従来のようにエッジデータをクラウド側に送信し、AIで一元処理することが難しくなる。実際にクラウド側のAIで処理した結果をエッジ側に戻すと非常に時間が掛かり、リアルタイム性も担保されなくなるし、通信量も高額になるという問題が起きる。またクラウド側のデータ増大にともない、その管理料も大きな負担になってくる。そこでクラウド処理だけでなく、エッジ側で処理を分散し統合したいというニーズが出ているわけだ。そういった背景をもとに、サイバートラスト IOT技術本部 副本部長 岸田茂晴氏が「組み込みAIの基礎知識と現状の課題と、課題解決に向けた最新ソリューション」について解説した。

エッジデバイス側のAIでデータを処理すると何か良いのか?

エッジデバイス側にAI推論エンジン(アプリケーション)を実装し、事前に処理を行ったうえで、その結果をテキストデータなどでクラウド側に送れると、データ送信量が抑えられ、リアルタイム性も向上する。さらにセンサーからの生データをそのまま送らず、エッジ側で分散処理するため、セキュリティ面でも耐性が高まるのだ。

エッジデバイス側で、事前にAI推論処理を行うメリット。処理性能だけでなく、セキュリティ対策や、クラウド側のデータ保管コストも削減できる。

エッジデバイスでAI処理を行う際の現状の課題とは?

とはいえ、エッジAI処理にも問題がないわけではない。実はエッジデバイス特有の制約条件があるからだ。クラウドサービスなら、お金を払えばリソースはいくらでも手に入るだろう。しかしエッジデバイスでは、そうはいかない。まずデバイス実装の部品数や消費電力、さらに肝心の処理能力にも限界がある。こういった制約をどうやってクリアすべきか、それが1つ目の課題だ。エッジAIの開発・運用の各プロセスにおける課題をまとめると以下のようになるだろう。

エッジAIの開発・運用時の「AI開発・学習フェーズ」「推論開発フェーズ」「機器開発・運用フェーズ」における課題。

まず「AI開発・学習フェーズ」では、大量のデータと演算能力が求められる。次に「推論開発フェーズ」では、性能と精度とデバイスの最適化を行うために、データサイエンスから実装技術まで、マルチスキルを持った優秀なエンジニアが必要だ。しかし、そういった人材の確保は難しい。さらに「機器開発・運用フェーズ」では、消費電力や実装スペース、デバイス認証・モニタリングなどの課題が挙げられるだろう。

ビデオ会議システムを例にした機器開発・運用フェーズでの課題とソリューション

ここからは、機器開発・運用フェーズでの課題とソリューションについて、ビデオ会議システムを例にして詳しく掘り下げていこう。

部品点数削減:ビデオ会議システムの事例。ここでは4つのDSPと、2つのAI(DNN)処理用エンジン、計6つのチップを実装。

組込み機器の開発における原則は、とにかく部品数を削減することだ。というのも、部品数が増えると、BOM(部品構成表)のコストが増えたり、消費電力が上がったり、部品間のバスを通じてシステム全体の処理が低下したり、当然ながら故障率も上がってしまうからだ。これは開発者の鉄則といえるだろう。

しかし一方で、ビデオ会議システムのようなエッジデバイスにAIを実装する際は、音声と映像の処理を施すために、音声信号のFFT(高速フーリエ変換)やイメージフィルタリングなどの処理が必要になり、4つのDSPと、音声分離と顔認識のAI(DNN)処理用エンジンで計6つのチップが実装されることになる。この部品数の増加が大きな制約条件になって、パフォーマンスやコストなどの足枷になってしまう。

次世代エッジコンピューティング環境を実現する低消費電力・高速AI推論プロセッサー

そこでサイバートラストは現在、米国のベンチャーであるクアドリック社と提携し、次世代エッジコンピューティング環境の構築をエンジニアリングレベルで推進しているところだという。

このクアドリック社が他社より優れている点は、新設計のアーキテクチャを採用し、ハードウェアとソフトウェアの複雑な構造をクリアしている点にある。これまではデータの前処理と後処理、推論処理を行うためには、各プロセスで専用チップが必要だった。ところがクアドリック社では、これらのプロセスをすべて統合し、ワンチップ化したエッジAIソリューションを提供している。

データの前処理と後処理、推論処理を行うプロセスを統合し、ワンチップ化したクアドリック社のエッジAIソリューション。

そのためデータのやり取りを大幅に削減でき、AI処理そのものを高速化できる。同社のエッジAIソリューションは、他社のようなアクセラレータではなく、低消費電力・高速AI推論が可能なプロセッサーとして展開しているのだ。もちろんワンチップ化しているため、部品数も減り、全体コストも抑えられ、パフォーマンス向上が期待できる。このような技術が、同社のみならず、最近では他社でも提案されるようになってきた。

サイバーセキュリティ国際標準規格への対応もエッジデバイスの基本要件になる時代

続いて2点目の課題は、セキュリティ面への配慮だ。データを高速処理するエッジデバイスそのものが、サイバー攻撃の対象になる危険がある。そこで現在、エッジデバイスもサイバーセキュリティ国際標準規格への対応が急務だ。サイバーセキュリティ国際標準規格は、さまざまな規格が業界ごとに登場している。相関関係は以下のとおりだ。

サイバーセキュリティ国際標準規格の相関関係。自動車系、重要インフラ系、医療系など、業界ごとにさまざまな規格が登場しているが、共通しているのは「ゼロトラスト環境」(Zero Trust)への対応。

たとえば自動車系のUN-R155/156や、米国政府調達基準(重要インフラ系)のSP800シリーズ、医療系のUL2900-1、産業制御システム系のISO/IEC62443などがある。これらの共通技術(暗号プロトコル、機能安全など)も15年ぶりにFIPS140-3でアップデートされ、これも基本要件に入ってきた。

これらの規格で共通しているのは「ゼロトラスト環境」(Zero Trust)への対応だ。昨年からバズワードにもなっているが、ゼロトラストのためにはネットワークに接続されるすべてのデバイスで信頼の基点、すなわち「Secure IoT Platform」(SIOTP)を適切に保護運用することが求められる。

前出のエッジデバイス/IoT機器に対する国際規格の動向に関しては、昨年までに一連の整備が完了している。いまは各国とも長期大型調達予算によって、新規格対応を強力に推進中だ。

エッジデバイス/IoT機器に対する国際規格の動向。これらの国際規格に米欧日が足並みをそろえ、調達要件になる流れだ。

米国ではバイデン政権で大型インフラ計画が進められ、今後10年間で通信インフラや電力グリッドに120兆円を投下する方針だ。それに伴って、新しいサイバーセキュリティ規格への対応が調達要件になってくるという。日本でも同様に電力グリッドでサイバーセキュリティ対策が明記されている。したがって日米欧による共通の標準化が確立されそうな流れだという。

とはいえ、組込み業界では、こういった標準化への対応は大変だ。これまでネットワークに接続されていなかったため、安全だと高をくくって、あまりサイバーセキュリティ対策を講じてこなかったからだ。しかし最近の流れで規格の標準化が進んでおり、調達要件を満たさなければ機器を販売できないところまで来ている。

サイバートラストが提供するセキュアエッジAI環境に向けたソリューションとは?

そのような状況で、サイバートラストはセキュアエッジAI環境向けのソリューションを提供中だ。たとえば、前出のIEC62443やSP800シリーズに対応するために必要な技術要素やドキュメンテーション、過去案件で培ったノウハウをパッケージにして、AI実装と運用を支援している。

サイバートラストが提供するセキュアエッジAI環境に向けたソリューション。

重要インフラの場合は一度導入すると10年単位で使われる。したがって組込み系エッジAIも長期にわたって利用されることが想定される。その間に脆弱性対策やAIの新規モデルを実装・更新する際に、重要になる運用のサポートを行うわけだ。具体的なパッケージ構成としては、クアドリック社のエッジデバイス向けAIソリューションのほか、セキュリティコンサルテーション、セキュアエッジAIに必要なSIOTPやEMLinuxが用意されている。

このうちSIOTPでは、「信頼の基点」の一要素となるトラストサービスをIoTデバイス向けに特化して提供。もともとサイバートラストには、サーバー証明書、人を認証する「iTrust本人認証サービス」や「デバイスIDサービス」などがあり、同じ技術によって、IoTデバイスがクラウドに接続されるときに、証明書で認証を実施することで、デバイスの真正性を担保する仕組みだ。

Secure IoT Platform(SIOTP)やEMLinuxなどを提供することで、ゼロトラスト環境に必要不可欠な機能を提供する。

また通常のOSSのLinuxでは3年間のサポート期間だが、サイバートラストが提供するEMLinuxは。産業用途のOSとして国際規格に対応するほか、10年間の超長期サポートなので、脆弱性に対しても安心だ。同社では、自動車から産業機器まで幅広い組込み向けの課題解決に向けたセキュリティコンサルティングも行っている。この機会に御社の製品サービスの維持・向上のために、こういったサービスやコンサルティングを検討してみるのもよいだろう。

★セキュアIoTプラットフォームの詳細、資料の請求はこちらよりも確認ください。
Secure IoT Platform(セキュア IoT プラットフォーム) – JAPANSecuritySummit Solutions

関連記事

サイバーセキュリティの課題をテーマ別に紹介中!!