JNSA 2024 セキュリティ十大ニュース
2024年は選挙の年、日本をはじめとして世界で重要な選挙が行われた。民主主義の根幹を支える選挙制度ではあるが、選挙によりかえって分断が進むなど、世界中で政治の安定に大きな疑問符が投げかけられている。その背景にSNSをはじめとしたサイバー空間の活動が深く関係している。
サイバー空間は物理的な制約を超越して個人間の情報や意見の交換に革命的な変化をもたらし、マスメディアの独壇場だった政治報道にも風穴があいたとともに、既成報道の虚実もあらわにした。その端緒は2010年から始まったアラブの春に見ることができ、民主化に大きく貢献したと言えるとともに、権威主義国の徹底したSNSの統制につながっているが、今年になって、これまで様々に指摘されてきた点が具体的な問題として噴出し、今後の民主的な政治体制の確立に大きな課題を突き付けたともいえる。
意見を同じくする者どうしを結びつけるとともに、意見の対立する者に排除の力が働くという二面性が、他者を許容しないところまで先鋭化するSNSの危険性が表出したとも言える。ポピュリズムの台頭やフェイクニュース、偽情報の拡散などはその典型であろう。
この原稿の執筆中に「ルーマニア大統領選 憲法裁判所が無効判断」のニュースが飛び込んできた。SNSを巧みに利用しロシア寄りの主張を掲げる無名の候補者が、本命視されていた現職の首相をも上回り大統領選挙で首位に立ったことに対し、憲法裁判所が「公正な選挙の過程が損なわれた」として選挙を無効とする判断を下したのだ。裁判所の異例の判断に批判の声も上がっていると聞く。わが日本においても、選挙ポスターや政見放送の乱用、当選を目的としない立候補、SNSの利用と選挙の公平性の確保など、選挙制度の在り方にもかかわる様々な課題が明らかになってきた。サイバー空間が人類の進歩と発展に寄与していくには、これらの問題にも解決策を模索していかなければならない。
このような選挙イヤー2024年の十大ニュースのトップはクラウドストライクが引き起こした史上最大規模の障害が飾ることになった。前向きのニュースとして能動的サイバー防御とAIセーフティ・インスティテュート (AISI)の設立がランクインし、KADOKAWAやイセトーのランサムウェア被害に太陽光発電やJAXAへのサイバー攻撃などに加えて、サポート詐欺やLINEへの行政指導のニュースが並び、選挙に影響を与えた偽情報やフェイクニュースは5位に入った。
サイバー空間は人類の幸福に味方するのか、あるいはさらなる混乱をもたらすのかの分岐点は技術に依存するというよりもますます政治への依存度を高めている。その政治体制の確立がサイバー空間に依存するとなると、混乱にさらに拍車をかけることにもなりかねない。サイバー攻撃の被害が拡大の傾向にあることも気がかりで、これらの懸念払しょくへの手がかりを早く確実なものにしたい、そう感じさせる今年のセキュリティ十大ニュースである。
【第1位】 7月19日 「史上最大規模」の障害引き起こしたクラウドストライク
~ 影響受けた端末は850万台、損失は54億ドル ~
【第2位】11月29日 「能動的サイバー防御」法整備への提言まとまる
~ セキュリティクリアランス制度も具体化、頑張れ日本! ~
【第3位】 6月9日 KADOKAWA「サイバー攻撃」が示した経営リスク
~ ハッカー集団が闇サイトで犯行声明、36億円の特別損失を計上 ~
【第4位】 2月14日 AIセーフティ・インスティテュート (AISI) を設立
~AI安全性評価法検討進む、一方セキュリティへの活用や悪用も進む ~
【第5位】 1月1日 能登半島地震に乗じてSNS上に偽情報が拡散
~ 選挙でも増すSNSの存在感と問われる偽情報対策 ~
【第6位】11月21日 偽のウイルス感染警告を表示させるサポート詐欺に注意
~ IPAへの相談件数過去最高、金銭被害に加え個人情報流出の可能性も ~
【第7位】4月16日 LINEヤフーの情報漏洩に2度目の行政指導、国家間問題へ
~ 親会社との資本関係の見直しを求める総務省に韓国政府らが懸念表明 ~
【第8位】5月29日 イセトーへのランサムウェア攻撃 全国多数の委託元が影響を受ける
~ 委託元の自治体や企業などから被害公表が相次ぐか ~
【第9位】5月1日 太陽光発電、サイバー攻撃の温床に IoT経由で不正送金
~インターネットに直接つながるIoT機器の脆弱性、ハッカーが悪用 ~
【第10位】7月5日 JAXAにおいて発生した不正アクセスによる情報漏洩
~ 政府組織は高度なサイバー攻撃の標的としてより強固な対策を ~
出典(詳細はこちらから):JNSA 2024セキュリティ十大ニュース~選挙イヤーのサイバー空間は人類の幸福に味方できたのか~