アイデンティティセキュリティ投資の実像
SailPointテクノロジーズジャパン合同会社は、「アイデンティティセキュリティ調査レポート2025-2026年版(以下:本レポート)」を公開した。年次調査として、アイデンティティセキュリティがセキュリティ投資の中で最も高いROIをもたらす領域であること、AIの導入と高度なアイデンティティプログラムの実践が企業の成果に大きな差を生むことを示している。
ROIが最も高い投資先としてのアイデンティティ
本レポートでは、アイデンティティセキュリティが他のセキュリティ領域と比べて高い投資対効果を発揮している点を強調する。アイデンティティは、かつてのバックオフィスの管理機能から、俊敏性や効率性、AIの活用を支える戦略的なプラットフォームへと位置付けが変化し、成長機会を切り開く基盤になっていると整理している。
SailPoint社長のマット・ミルズ氏は、「アイデンティティはセキュリティスタックの中で、最も高いROIを生み出す要素となっています。これにより、企業はコスト削減、リスク低減、成長加速を実現できます」と述べ、アイデンティティがポリシー適用や重要な意思決定、セキュリティ運用の集約が行われる中核的な制御ポイントになっていると指摘する。
さらに、人間、マシン、AIエージェントといった多様なアイデンティティを一元的に管理し、AIやデータ管理、脅威検知の進化を通じて、統合的な可視性や拡張されたガバナンス、自動化されたレジリエンスを提供する将来像を示している。
成熟度ギャップとAI導入のインパクト
本レポートでは、主な調査結果として、「アイデンティティ成熟度ギャップの拡大」、「AI導入による成功効果の拡大」、「導入ベストプラクティスの重要性」、そして「アイデンティティ + データ + セキュリティ」の三位一体という4点を掲げている。
過去4回のアイデンティティ成熟度調査からは、成熟度の基準が継続的に上昇していることが示される。手動のIAMから自動化へ、マシンアイデンティティの管理を経て、現在はAIエージェントのライフサイクル管理やアダプティブトラストへの進化が求められている。また、対象となるアイデンティティも、人間のユーザーや外部委託者だけでなく、マシンアイデンティティや急増するAIエージェントへと広がっている。
投資対効果の面では、IAMが他のセキュリティ領域の2倍のリターンを一貫してもたらしているとし、アイデンティティを戦略的な優先事項として扱う組織は、そのリターンを最大化する可能性が40%高いと説明する。一方で、多くの組織は依然として初期段階にとどまっている。成熟度第1〜第2段階が全体の約63%を占め、手動プロセスに大きく依存しているのに対し、アイデンティティを成長プラットフォームとして活用する第4〜第5段階に達している組織は10%にとどまるとしている。
導入の複雑さやデータの不十分さが進化の障壁となっているものの、アイデンティティは管理機能から成長を促す起爆剤へと変化し、成熟度を高めた組織は、より高いセキュリティとビジネス成果を両立できる体制を整えているとまとめている。
高度な機能 / データ整理 / ベストプラクティス
成熟度の高い組織の特徴として、本レポートは高度な機能の受け入れ方に言及する。先進的な組織は、AI対応のアイデンティティ制御を他社の4倍の速さで導入し、ITDR(Identity Threat Detection and Response)、アダプティブ認証、AIエージェントやボットのガバナンスなどのツールを積極的に活用している。
さらに、アイデンティティデータの自動同期を4〜8倍の頻度で展開し、断片化したアイデンティティデータやライフサイクルワークフローを統合することで、企業全体で測定可能な生産性向上を実現していると整理している。
高度なアイデンティティセキュリティ(第3段階から第4段階)に到達するには、基本的な自動化を超えた取り組みが必要とされる。
成功している組織は、移行前にデータ整理に注力しており、その結果として効果的にスケールできる可能性が1.6倍高くなっていると説明する。アプリケーションのオンボーディングの標準化、自動化されたライフサイクルワークフロー、アイデンティティデータの同期強化などのベストプラクティスが、ITDRやアダプティブ認証、AIエージェント管理といった高度な機能へとつながる道筋になっていると位置付けている。
ROI最大10倍と顧客事例
より高い成熟度レベルへ進化した企業の成果について、本レポートは戦略的な焦点の違いに着目する。アイデンティティは、エンドポイントやネットワーク、コンプライアンスツールを一貫して上回る投資対効果を生み、セキュリティ投資の中で最も高いROIをもたらすとする。
アイデンティティを戦略的なビジネスの推進力として扱う企業は、一般的にROIが最大10倍になるとされ、リスク軽減、収益拡大、安全なAI活用を同時に実現し得ると整理している。
顧客事例としては、WiproやSpecsaversなどが挙げられる。Wiproは、アイデンティティの全社導入の段階を超え、高度な自動化やAI対応機能の導入を進め、アイデンティティを変革の基盤としていると紹介される。Specsaversは、大量の手動タスクの自動化と最小アクセス権限の徹底により、セキュリティ体制と業務効率を同時に高めた事例として位置付けられている。
Wiproのビジネス統合テクノロジーソリューション担当バイスプレジデント、サトヴィンダー・マドホク氏は、「私たちは、Wiproにおける効果的なアイデンティティ機能の全社的な導入という段階を超えて、自動化とAIを活用した高度な機能へと移行させることにしっかりと注力しています」 とコメントし、先進企業がめざす方向性を示している。
本レポートの詳細およびお客様の組織の現状は、「アイデンティティ セキュリティ調査レポート2025-2026年版」で確認可能である。
