セキュリティフォーラム2023オンライン開催(その2)
特別講演編、ドローン&メタバースの可能性とセキュリティ対策
(一社)日本スマートフォンセキュリティ協会(以下、JSSEC)と(一社)セキュアIoTプラットフォーム協議会(以下、SIOTP協議会)、および(一社)セキュアドローン協議会(以下、SDC)は、産業用途の活用が進む「メタバース」を主なテーマに「セキュリティフォーラム 2023 オンライン」を開催した。ここではドローンのセキュリティとメタバースの可能性に関する2つの特別講演についてレポートする。
<参考>セキュリティフォーラム2023オンライン開催(その1)~8つの研究成果を一挙に発表!
特別講演① 産業用ドローンとメタバースの関係は? 解決すべきセキュリティの問題も含めて解説
まず特別講演①では、「産業用途におけるメタバースとドローンの活用事例、およびセキュリティの重要性」をテーマに、ドローン・ジャパン取締役会長 兼 (一社)セキュアドローン協議会代表理事・会長の春原久徳氏が解説を行った。
ドローンビジネスの環境をみると、現在の市場はB2Bが中心になっており、業務活用がメインになっているため、水平分業型のビジネスが構成されているという。インプレス総研によれば、その市場規模は年々拡大し、2021年度は2308億円で昨年度より約25%増となり、今年度は3000億円超となる見込みだ。内訳をみるとサービス市場が最も大きく1147億円、機体市場693億円、周辺サービス市場468億円と続く。
サービス別の規模では、空撮、土木・建築、点検、農業、防犯、物流などがあり、2020年度までは農薬散布での利用が多かったが、2021年度から点検市場が逆転。一方、ドローン物流は実証実験レベルで、ビジネスモデルの構築も苦慮している状況だ。現在のドローン活用は、SDGsがらみでの森林調査、測量領域での土木DX、点検領域での太陽光発電や橋梁の点検が進んでいる。2022年度は国のプロジェクト予算が縮小するなかで、中大型ドローンや空飛ぶクルマへ予算がシフトしている。またドローンサービス会社の売上格差が広がってきた。
ドローンの技術に関しては、産業目的を達成するという点で、運搬・散布・採取などの作業代替と、データ加工・分析の情報収集が大きな役割といえるが、現状では後者のほうが市場が伸びている。ラジコンとドローンの技術的な違いは、ドローンにはフライトコントローラ(以下、FC)が搭載されており、マイコンでサーボ系を制御して操縦がラクになったことだ。ソフトウェアの観点では、機体制御(衝突回避、カメラ制御)・機体管理(自動航行、飛行ログ解析)・情報処理(画像合成、IoT連携)で開発が分けられている。
機体自体は、マルチコプターから大型機、固定翼にも開発が広がっている。FC技術も空から陸、水中で使われるようになった。陸上に関しては道交法が改正され、遠隔操作型の移動ロボットが走れるようになった。そのような状況で、ドローンの活用事例として、ステレオカメラを利用した土木現場の3次元化や進捗状況の確認、マルチスぺクトラム(近赤外線)での作物育成の把握なども挙げられる。
近年のトレンドは、安全保障上の観点で中国の機体から、欧米・国産の機体へのシフトが加速していること、またLTEを搭載したドローンの高度化が進んでいることだろう。携帯電話の上空利用については、どの国も隣接基地局からの電波干渉が懸念されたものの、ドローン端末の制御や干渉の検出、上り信号パワーの制御などで国際標準が進み、モバイルネットワークを利用できるようになった。日本でも2021年から始まっている。
これまではドローンそのものがインターネットと接続されてなかったが、モバイルネットワークによってデータを直接クラウドに転送できるようになった。昨年、レベル3(人口集中地区以外での目視外街飛行)とレベル4(人口集中地区での目視外街飛行)が解禁になり、電波が届かない遠隔地でもモバイルネットワークでクラウド経由でテレメトリやカメラ映像などの確認が可能となった。またクラウド送信が可能になり、オンタイムでのデータ分析が行える。そういう点でLTE搭載ドローンは当たり前になってくるだろう。
ドローンの利活用は、さらにDXとメタバースで広がりを見せ始めると予想される。点検DXは、構造物のメンテナンスで活躍できる。特に日本のインフラは老朽化が進んでおり、人手不足や高齢化、管理コストの問題解決にも寄与する。ロボティクスとの連携や、3次元のデジタル台帳作成、各種デジタルデータの取得において、さらにドローンが役立つだろう。また建設DXでは、BIM(Building Information Modeling)や、インターネットを利用したiBIMの進展にもドローンの期待がかかる。
一方、メタバースは、CAD図面が3次元化してクラウドとつながる中で、ARやVRと重ねて動くためのコネクト役になるだろう。具体的には、SAP’s Cloverのように、高層ビルで実地の建物と並行してメタバース内でもオブジェクトを作り、建物の劣化などの予測シミュレーションが可能になる。ここでドローンによって、実態データを取得し、シミュレーションのデータに活用することで、より確度の高い予想が可能になる。
当然ながらドローンでデータを取得して活用する際にはセキュリティも非常に重要になる。2020年に内閣府が「ドローンに関するセキュリティリスク対応」に関して発表した。特に社会実装へフェーズがシフトし、上空LTEサービスが始まると、セキュリティのリスクが格段に高まっていく。悪意ある第三者に乗っ取られたり、バグや脆弱性、ウイルス、通信ジャック・妨害、貨物やデータの掠め取りなどの防止が最も重要だ。法令順守、ブランドイメージの失墜、機密データの漏洩といったリスクを念頭に置く必要がある。
そのために、防御対象として機体制御の心臓部となるFCや、コンパニオンPC、グランドPC、クラウドなどを分けて守ること、機体の制御・管理、情報処理において仕分けをしてプライオリティを付けながら対策を講じることが求められる。今後、ドローンはメタバースにもつながってくるため、しっかりとセキュリティを担保して安全・安心に使うことが、まずます肝要になる。
特別講演② 「地方創生からニッポン創成へ」 ~メタバースが実現の可能性を広げる~
続く特別講演②では(一社)メタバース推進協議会 事務局長 市川達也氏が「地方創生からニッポン創成へ ~メタバースが実現の可能性を広げる」をテーマに解説した。インターネット上で仮想空間の活用が注目されているが、コロナ禍によってメディアやコンテンツも広がってきている。個人が現実空間のように振る舞えるメタバースは、新たなコミュニケーション手段となるが、まだルールや規制が整備されておらず、プライバシー保護などについて検討が必要だ。
そこで、医学者の養老孟司を代表理事とし、多くの企業と地方自治体、中央省庁が、メタバースの普及・浸透とガイドラインの策定を進めるメタバース推進協議会を発足させた。メタバースの中核技術には、テレプレゼンスとデジタルツイン、ブロックチェーンの三本柱がある。メタバース=VRだけでなく、これらの技術の潜在的な価値は極めて大きい。世界では実際にこういった技術を活用した試みが続々と登場しているのだ。
メタバースは、現実世界から仮想世界に入り、そこで逆に現実世界に戻って「リアルなものに触れたい」「食べたい」といったユーザーを現実世界に戻す。つまり現実と仮想が相互に作用し、送客しあう世界だ。これが「メタバース・トランスフォーム」(MX)となるが、現在は仮想空間をつくることからスタートしている。しかしモーションキャプチャやHMDなどにより、人間の五感を拡張する技術が進めば、将来的にはSF映画のようなことも実現していくだろう。
一方、現時点でメタバースのビジネス活用を考えたとき、企業が業績を伸ばすために採用するのであれば「売上を伸ばす」「経費を削減する」「運用する」という3つの目的に分けられるだろう。このうちB2B分野では顧客接点という側面から売上を伸ばしたり、B2B分野では社内の業務効率を向上することで経費削減できるという利用シーンが考えられる。
まずB2C分野では、仮想世界を舞台として生活圏は形成され、人間拡張による没入感の向上と、現実世界への転写が進んでいる。
たとえば米国のWarner Musicは、The Sandboxという仮想NFTゲームに「the WMG LAND」を作り、アーティストのコンサートやライブを開催。ライブ会場に来ているような没入感のあるソーシャル音楽体験を提供している。しかし、こういった動きに対して、米国では訴訟問題も起きている。全米音楽出版社協会(NMPA)が、Robloxに対して「ゲーム音楽ライブラリに著作権侵害がある」として訴訟を起こしたが、最終的に訴訟が棄却され、互いにルールを作っていくことで合意。このようなことは今後の日本でも起きえることで、ガイドラインが必要になるだろう。
また韓国観光公社(KTO)は、仮想旅行体験ができるプラットフォーム「K-Travelog」や「Zepeto」を提供し、釜山、慶州、ソウルなどの観光スポット巡りを楽しめるようにしている。日本でもANAなどが仮想旅行体験に力を入れている。英国老舗デパートのSelfridgesは、プラットフォーム「Decentraland」に世界初のメタバースデパートを設立し、芸術家とファッションブランドとのコラボでNFTアートファッションを展示し、オンライン購入を可能にした。三越も同様にメタバースを検討中だ。
JPモルガン日本支社も前出のDecntralandに「Onyx Lounge」を設置し、仮想通貨のプレゼンや、決済・資金調達などの金融サービスを提供などの計画を立てているが、そのためには銀行法などの現行法の改正が必要になってくるだろう。米国のRepublic Realmではメタバース空間における不動産開発や売買・賃貸を開始。デンマークのLabsterは、研究施設をバーチャル化し、科学の実験や学習を安全かつ効率的に学習できる仮想空間を提供している。
このように海外ではエンタメ以外での仮想空間の利用が進んでいる。それと同時に、さまざま課題も見えてきており、メタバース推進協議会としても、新たな課題の洗い出しやルール整備に力を入れていくという。
一方、B2C分野では、メタバース工場などにより、工場型労働から解放され、新しい生産方式が生まれる可能性もある。
たとえばドイツのBMWは、NVIDIAのオープンプラットフォーム「Omniverse」を利用した生産ラインのデジタルツイン化により、クルマの設計から工場ラインのレイアウト、ロボット製造のシミュレートまでを仮想空間で効率的に実現する「仮想オープンファクトリ」で、価値の最大化を目指そうとしている。またフランスのSimangoは、メタバース上に医療従事者向けトレーニング用病院を作り、アバターが手術室や病室などを移動して、さまざまな医療訓練ができ、NFTの修了証明書を発行してもらえる仕組みも構築した。
このようにB2B分野では、デジタルツインの文脈で仮想世界の活用が先行し、テレイグジスタンスやハプティクス(力、振動、動きなどをユーザー与えることで皮膚感覚フィードバックを得る技術)などの人間拡張技術の活用も進み、新たなワークスタイルが生まれてくる可能性が示唆されている。今後は、NFTの普及によって、経済的な取引も進展していくだろう。しかし実際に経済活動を行うためには、課税の問題をクリアしたり、仮想空間内での犯罪をどう取り締まるべきかといった課題も山積している。これらを利用者目線で解決していく必要がある。
日本には、まだモノづくりでの潜在的な能力が多く残されている。しかし日本人は、それらを発信することが得意ではない。メタバース推進協議会では、これらを世界に向けて発信して日本を知ってもらうこと、海外から地方に対してインバウンドを狙うことで、地方を盛り上げて日本全体の活気につなげることが重要と考えている。そこで同協議会ではメタバース空間で「地方創生×100年企業創成」プロジェクトを始動させ、日本の良さを海外に発信しているという。
<参考>「百年百貨店」構想を発表。メタバース推進協議会、2023年の活動指針において